診療科・部門

乳房再建手術

はじめに

長所と短所を検討し、最善の選択を

「乳房再建手術」を考えている方の参考になるよう、当院で行っている手術の情報をまとめました。
手術法の決定に際しては、再建の時期や手術法についてそれぞれの長所・短所をご理解いただいた上で、患者さん自身で手術法を選択していただくことになります。特に、起こりうる合併症についてご理解いただくことが重要です。合併症を生じた場合、再手術が必要になったり、期待通りの結果が得られなかったりすることがあります。
また乳房再建も手術である以上、よい結果が100%保証されるわけではありません。元通りの乳房が取り戻せるわけではありませんし、左右が完全に対象になるわけでもありません。

再建を行うかどうかは患者さん本人の自由意志で決めていただくことになります。以下の説明をよくお読みになり、手術についてよくお考えいただければと思います。

乳房再建手術の目的

乳房再建手術は直接的にがん細胞と戦うものではありません。しかし、失われた乳房の形態を修復することで外見的な違和感をなくし、肉体的のみならず精神的にも元の生活に近づけることにつながります。
また、再建に年齢は関係ありません。60歳以上の方でも再建手術を受けられる方は珍しくありません。

乳房再建手術を行うタイミング

乳房再建手術を行うタイミングには①乳がん手術と同時に行う「一次再建」と②乳がん手術を終えてから期間を空けて行う「二次再建」があります。当院では2023年6月より、一次再建手術と二次再建手術の両方をおこなえるようになりました。

・一次再建手術
乳がんの切除と同時に乳房再建を行う方法(※)です。利点としては乳房の喪失感を軽減することと、手術の回数が少なくてすむことが挙げられます。欠点としては、手術までの考える時間が短くなってしまうことが挙げられます。(※同時と言っても、1回の手術で全ての再建が完了するわけではありません。)

・二次再建手術
乳がん自体の治療が一段落ついたところで再建を行う方法です。利点は再建手術の内容について考える時間があることです。欠点としては再建までは乳房を失った状態で暮らさなくてはならないこと、手術の回数が一回多くなることが挙げられます。

手術方法

再建には大きく分けて人工物 (ティシューエキスパンダー、シリコンインプラント) を使う方法と、自家組織 (自分の皮膚や皮下脂肪) を移植する方法があります。当院で行っているのは原則として人工物での再建となります。

人工物を使った乳房再建

手術は、ティシューエキスパンダー挿入手術と、インプラント入れ替え手術の2回に分けて行います。
この方法の利点は体のほかの部分に傷をつけなくてすむこと、そして手術は比較的単純で手術時間も短いこと (1〜2時間) です。一方、欠点としては再建する乳房の形がインプラントの形で決まってしまうため、乳房が下垂した方や、胸元やわきの凹んだ方などは乳房の形を作りにくいことがあります。またインプラントは胸の筋肉(大胸筋)の下に入れるので動かず、姿勢を変えても形はそのままです。

手順① ティシューエキスパンダー挿入手術

乳がん手術では乳腺とともに乳房の皮膚が切り取られていますので(図1)、皮膚の不足を補うためにまずティシューエキスパンダー(シリコン製の風船)を挿入します。
図1 (乳がん手術前)
図1 (乳がん手術前)
(乳がん手術後)
(乳がん手術後)
通常、乳がん手術の傷跡を切開し、皮膚および大胸筋の下にティシューエキスパンダーを挿入します(図2)。麻酔は全身麻酔で、入院期間は7日間程度です。
退院後、傷が治るのを待ってから3〜4週に1回ぐらいの頻度で外来通院していただき、エキスパンダーに生理食塩水を少量ずつ注入してふくらませます(図3)。ふくらむのに3〜6ヶ月程度、膨らんだ状態で安定するのに8〜10ヶ月程度かかります。
図2
図2
図3
図3

手順② インプラント入れ替え手術

手術により乳房の形を再建します。初回の手術で大胸筋の下に挿入したティシューエキスパンダーにより大胸筋と皮膚が伸ばされているので、エキスパンダーを取り出してシリコンインプラントに入れ替えます(図4)。麻酔は全身麻酔で、入院期間は7日間程度です。
図4
図4

人工物を使った再建の合併症

シリコンインプラントで再建した場合、その後10年で何らかの合併症が起こる確率は20%程度といわれています。主な合併症には以下のようなものがあります。

①出血、血腫
血腫は傷の中に血液がたまってしまうことです。手術で取り除くこともあります。

②感染
細菌によって再建部分が膿んでしまうことです。一度起きてしまうと、インプラントを取り出さざるを得ない状況になることが多く、再建は一からやり直しとなります。

③カプセル拘縮 (被膜拘縮)
これはインプラントのまわりに膜ができて、それが収縮することでインプラントの形が不自然に浮き出てしまったり痛みを生じたりすることです。

④胸部の皮膚壊死やインプラントの露出
乳がんの手術を行ったあとの皮膚は非常に薄く、部分的に皮膚が死んでしまうことがあります。通常は軟膏などで治すことができますが、皮膚壊死の場所や範囲によってはインプラントの露出が起き、再手術が必要になることがあります。

⑤エキスパンダーやインプラントの位置の異常や破損など
インプラントが大胸筋の動きによって位置がずれてしまうことがあります。防ぐために手術後1〜2週間、胸に専用のバンド(事前に購入が必要)を巻いてもらったり、腕の動きを少し制限したりします。ずれが大きい場合は手術でよい位置に入れ直すことがあります。

⑥将来的な入れ替え
インプラント入れ替え後に破損が見つかれば交換が必要となることがあります。10〜20年程度で入れ替えの手術が必要になる可能性があります。

⑦ブレスト・インプラント関連 未分化大細胞型リンパ腫
(BIA-ALCL=Breast Implant Associated-Anaplastic Large Cell Lymphoma)
インプラントを使用した乳房再建や豊胸術を受けた人の中に特殊なリンパ腫を発症する方がいることが近年わかってきました。シリコンインプラントへの入れ替えが完了したあと1年以上たってから、インプラント周囲に液体がたまり、再建乳房が腫れてくるという症状で始まると言われています。現在発表されている海外における BIA-ALCL の発生頻度は約2,200~86,000人に1人の割合とされています。これまでにアジアでの報告は日本の1例を含めた4例だけです。

治療は手術が中心で、発見が早ければインプラントとその周囲の組織を切除するだけで治癒すると言われています。早期発見のため、手術後もインプラント周囲に腫れやしこりなどがないか、観察を続けることが重要です。そのため、当院では手術後、前述のインプラントの破損についての検診も兼ねて、年1回は外来受診をしていただくようにしています。

このBIA-ALCLの発症にはティシューエキスパンダー、インプラントの表面性状が関与している可能性があります。日本で以前使用されていたテクスチャードタイプ(表面がざらざら)のインプラントおよびティシューエキスパンダーも、他社の製品と比較して BIA-ALCLの発生リスクが6倍になるなどの情報から、2019年7 月に 自主回収、販売停止となりました。スムーズタイプ(表面がすべすべ)のティシューエキスパンダー、インプラントについてはBIA-ALCL 発症との関与を疑うような証拠は見つかっておらず、2020 年1月に通常受注が開始されました。

自家組織 (自分の皮膚や皮下脂肪) を使う方法

※当院では原則として実施していませんが、手術方法としてご紹介します。
自分の皮膚や皮下脂肪を胸に移植して乳房の形を作る方法です。自家組織は下腹部や背部から筋肉 (腹直筋や広背筋) を含めて採取するのが一般的です(図5)。
自家組織による再建の利点は、より自然な乳房を再建できることです。自分の組織なので異物反応を起こすことはなく、手術から時間がたつにつれて乳房らしい柔らかさがでてきます。
欠点は、体の別なところから組織を採取するために大きな傷をつけなければならないことです。手術は複雑で長時間に及び(7~12時間程度)、移植した組織の壊死の可能性もあります。体への負担が大きいため入院期間も2週間程度と長期になります。
図5
図5

費用について

人工物を使用する方法についても自家組織を使用する方法についても健康保険が適用されます。
3割負担の場合の自己負担額の目安
・ティシューエキスパンダーの挿入手術 20万円前後
・シリコンインプラントの挿入手術 30万円前後
・自家組織による再建の場合 30万円〜50万円程度
※高額療養費の払い戻し制度が利用可能です。
※実際には自己負担割合や入院期間などにより金額が大きく変わります。

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