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心不全について

心不全について

日本の循環器疾患の死亡数はがんについで第2位です。その約40%は「心不全」によるものとされています。
今後さらなる高齢化社会を迎えようとしている中、心不全による入院数や死亡率は増加の一途をたどっています。そんな怖い病気「心不全」について、総合大雄会病院の寺沢彰浩医師が解説します。

心不全とはどんな病気ですか?

心臓は、24時間休まず、酸素や栄養分を含む血液を全身へ送り出すポンプの役割を果たしています。心不全は、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」です。その原因、症状、重症度は、患者さまによって様々です。

心不全の原因はなんですか?

様々な心臓病が原因で心不全になります。心臓へ血液を送る血管(冠動脈)が詰まる心筋梗塞や狭心症、高血圧、そして心臓には血液が一方向に流れるよう弁がありますがその弁が障害される弁膜症、心拍動が異常となる不整脈、心臓の筋肉自体が障害される心筋症などがあります。

心不全になるとどんな症状がでますか?

初期に見られる症状は運動時の息切れや、両足のむくみです。心不全になると心臓は体に必要な血液を送れなくなります。そのため、階段を登ったり、動いた時に息切れがするようになります。疲れやすくなることもあります。また、腎臓への血液の流れが低下して、体に水分がたまり、足の甲やすねあたりがむくんだりします。さらに進行すると体の中で血流のうっ滞がひどくなり、安静時でも息苦しくなったり、苦しくて横になれない起坐呼吸(※)の状態になることもあります。息切れやむくみが出現するようでしたら、お近くの医療機関、かかりつけ医にご相談されることをお勧めします。

※体を横にすると、重力のために下半身にたまっていた血液が急に心臓に戻り、肺うっ血が強くなるため呼吸が困難になる。それに対して体を起こして座ると心臓に戻る血液量が減り、心臓への負担が軽減することで呼吸が楽になる状態。

心不全の検査、診断について

心不全の検査、診断はどのようになされますか?

患者さまのお話を聞いて身体診察を行い、いくつかの検査を組み合わせて行います。心不全の有無を診断することから始まり、心不全ならばその病状や程度(重症度)、原因となる心疾患を精査・診断し、患者さまに最適な治療を検討します。
【胸部X線検査】
心不全によって水分が体内に貯留すると、心臓が拡大したり、肺やその周囲に水分が貯留(肺水腫、胸水)します。その状態を把握するための検査です。
【心電図】
心不全の原因となる心臓病や不整脈を調べます。
【血液検査】
心不全の有無、程度判定で重要となるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の濃度測定をします。
【心臓超音波検査】
胸に機械をあてて超音波で心臓を観察します。心不全の原因となる心筋梗塞、弁膜症や心筋症などの心臓病の診断や、心臓の働きを評価します。
以上のような、患者さまに負担の少ない検査を行い、心不全の有無、病状を把握します。
さらに必要に応じて、以下の検査を行います。
【心臓MRI検査】
心臓の筋肉の性質や障害の程度を調べることができます。
【心臓カテーテル検査】
手首や足の付け根の血管からカテーテルという細い管を心臓に入れて検査します。心臓の働きを直接測定したり、心臓へ血液を送る冠動脈に異常がないか調べます。また、心筋生検を行うこともあります。心筋生検では、直接心臓の筋肉を少量採取し、心筋の異常を調べ心不全の原因を詳細に評価します。

心不全の治療について

心不全の治療では、次の3つを行います。
①心不全そのものに対する治療
まずは心不全そのものに対する薬物療法を行います。安静にしていただき、心臓の負担を軽くし、心臓の働きを回復させるよう心臓を休める薬を用います。患者さまの状態に合わせて、いくつかの薬を調整します。症状が比較的軽い場合は外来通院で内服による治療を行います。しかし、症状が重い場合や速やかに心不全を落ち着かせる場合には、入院して、内服のみでなく点滴による治療を行います。

②心不全を発症または悪化させた要因に対する治療
感染症や貧血など心不全を発症させた、または悪化させた要因があれば合わせて治療します。そのほか多くの場合、塩分を取りすぎないなど食事療法や生活習慣の改善が必要となります。

③心不全の原因となる心臓病の治療
心不全の原因となる心臓病が確定し、治療法がある場合は、その心臓病に対する治療を行います。例えば、心筋梗塞や狭心症ならば、詰まったり狭くなった冠動脈に対してカテーテルによる治療(経皮的冠動脈形成術)や冠動脈バイパス手術が行われます。また、弁膜症ならば、手術による弁形成術や人工弁置換術が有効です。また近年では、弁膜症に対するカテーテルによる治療も行われてきています。不整脈であれば、薬物療法のほかにカテーテルによる治療(カテーテルアブレーション)が効果的な場合があります。
心筋症など心筋自体が障害された心不全では、薬物療法が中心となります。心臓再同期療法というペースメーカによる治療が有効な場合があります。改善しない場合には、補助人工心臓や心臓移植が必要となる場合もあります。
また、閉塞性肥大型心筋症では、薬物療法に加えて心筋切除術やカテーテルによる中隔心筋焼灼術が有用な場合もあります。
一概に「心不全」と言っても、患者さまそれぞれで病状は異なります。疑問な点があれば、かかりつけ医または循環器内科のある医療機関に相談していただくのが良いと思います。

心不全の予防について

心不全の予防

心不全の原因となる「心臓病」にかからないことです。心臓病の危険因子である高血圧、糖尿病、肥満に対する予防、生活習慣の改善、治療。これらの要因に加え、動脈硬化の危険因子でもある脂質異常症(高コレステロール血症など)、喫煙、運動不足に対する管理が重要です。また、心筋梗塞などの心臓病にかかっても、生活習慣改善や薬物療法により、心不全を発症させないようにしなければなりません。

心不全の増悪、進行予防

心不全を発症した後も、心不全の予防に加え、毎日の体調管理(「心不全手帳(※)」を用いた自己管理)、増悪の早期発見、適切な薬物療法、生活習慣の改善により、心不全の進行を遅らせることができます。
心肺運動負荷試験(CPX)に基づいた運動療法や多職種(栄養士や薬剤師、看護師など)チームによる生活習慣の改善を行う心臓リハビリテーションが、生活の質を改善し心不全の発症予防、進行予防に有効であることが示されています。詳しくはかかりつけ医または循環器内科のある医療機関に相談ください。

『心不全手帳』はこちらからダウンロードできます。(日本心不全学会ホームページより)

監修

総合大雄会病院副院長
寺沢 彰浩(てらさわ あきひろ)

● 主な資格
日本内科学会 総合内科専門医
日本循環器学会 循環器専門医

● 主な専門領域
虚血性心疾患、心不全の治療、循環器救急

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