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肺がん 詳細や手術について

肺がんのお話です。

がんで1年間にお亡くなりになる方は、2021年の調査では37万人(男性22万人、女性15万人)を越えています。2022年の一宮市の人口が37.5万人ですから、1年間で一宮市の人口が消えてなくなることになります。このまま増え続ければ、20年後には愛知県の人口が日本からいなくなることになります。
では、肺がんについてはどうでしょう。2021年の肺がんの死亡者数は7.8万人で、2位の大腸がんは5.4万人ですから、全てのがんの中でダントツのトップになります(図1)。
肺がんになる方(これを、“肺がんの罹患数”と言います)が多いから、お亡くなりになる方が多いのでしょうか。いいえ、そうではありません。がんの罹患数は男性で前立腺がん、女性では乳がんが最も多いのです。肺がんの罹患数は男性で4位、女性では3位です(図2)。
しかし、肺がんの死亡者数は男性で1位、女性では2位になり、男女合わせた死亡者数は2万人以上の差をつけてトップになります(図3)。
では、なぜ肺がんでお亡くなりになる方が多いのでしょうか。その理由は早期発見の難しさにあると考えられています。
では、なぜ早期発見が難しいのでしょうか。その理由は、肺がんの症状にあります。
肺がんの症状は咳、痰(血痰)、呼吸困難、胸部痛(あるいは背部痛)とされていますが、これらはいずれもある程度進行した肺がんの症状です。早期がんでは症状が出ない場合が多いのです。肝臓や膵臓はかなり悪い状況にならないと症状が出ないため”沈黙の臓器“と言われていますが、肺がんに関しては肺も同様なのです。
早期発見のためには何をすればいいのでしょうか。まず、がん検診を受けてください。

肺がん検診。そして肺がんの検査へ。

肺がん検診では、胸部レントゲン写真を撮影します。これで異常が見つかれば、専門医療機関を受診して、“CT”検査を受けていただきます。CT検査とは人間の断面図を作る検査です。

ここで、肺がんの写っている胸部CT写真をお見せします(図4)。どこに肺がんがあるかお分かりになりますか?答えはこのページの最後に。

その他にがんに集まりやすい物質を点滴してレントゲンなどを撮影する“PET検査”、痰のなかにがん細胞がいないか確かめる“喀痰細胞診”、気管支鏡という細いカメラを口から入れて、空気の通り道(“気管、気管支”と言います)から、がんの一部を取って確かめる“気管支鏡下生検”を行って診断します(図5)。
図5
図5
診断するとともに、進行度を判定します。これを”ステージング”と言い、I期からIV期まで4段階に分けます。数字が増えるごとに進行がんとなり、進行するほど予後は悪くなります。I期では5年後に再発のない方は80%を越えていますが、Ⅳ期になると34%に下がってしまいます(図6)。全てのがんに言えることですが、早期発見・早期治療が大切です。
では、肺がんと診断された場合、どのように治療するのでしょうか。治療は大きく分けて、抗がん剤療法、放射線療法、手術療法の3種類で、これらを組み合わせて行います。早期がんの治療は手術による切除です。これは、早期肺がんの治癒率(一般的には5年後に再発のない割合を用います)は、手術治療が最も高いためです。
そこで、肺がんの手術療法についてお話しさせていただきます。

肺がんの手術治療。その進化。

肺がんの手術は、①開胸手術②小開胸手術③胸腔鏡手術と進化していきました(図7)。現在の主流は③の胸腔鏡手術です。これに関しては別のページの“胸腔鏡手術について“でも簡単にふれていますが、1~2cmの傷を2ヶ所、3~4cmの傷を1ヶ所(切除した肺を取りだすための傷です)が、基本の傷で手術を行います(図8)。
標準開胸の手術と傷を比較すると(図9、10、11)、「どうして、これだけ小さな傷で同じ手術ができるのか?」と疑問に思われると思います。それは、道具の進化と手術技術の向上に加えて、最大の要因としてカメラ(胸腔鏡と言います)の導入があげられます。
胸腔鏡という”目”で拡大された映像を見て、鉗子という”手“の代わりをする道具を穴から挿入して手術を行います(図12)。胸腔鏡はカメラの先に長い棒がついていて、この先にレンズが取り付けられています。鉗子はハンドルから伸びた棒の先にピンセットやハサミのついた道具です(図13)。そのほかにも様々な器具を用いて肺を切除します。これらの器具を用いることで、開胸手術と同等の安全性と根治性を確保しているのです。
しかし、残念ながら全ての肺がん手術が小さな傷でできるわけではありません。鉗子や長い道具には動きの制限があるため人間の手には遠く及びません。複雑な手術は現在でも開胸手術で行っています。

さらなる進化。ロボット支援下手術。

胸腔鏡手術からの次の進化は、手術支援ロボットを用いたロボット支援下手術です(図14)。
ロボット手術と呼ばれているものですが、決してロボットが自動でやってくれる(こうなると外科医は楽なのですが…)訳ではありません。あくまで、外科医がロボットを胸腔鏡や鉗子の代わりの道具として使って行う手術のことです。
図14
図14
胸腔鏡手術と比較した利点は、鮮明な立体画像と多くの関節を持つロボットアームにあります(図15)。これにより、平面画像と鉗子を用いて手術を行う胸腔鏡手術より複雑なことが容易にできます。これまで開胸しなければ難しかった手術も、手術支援ロボットを使えば小さな傷でできる可能性があります。さらに、複雑なことが容易にできれば、ミスを少なくすることもできるので、患者さんにもメリットはあると考えています。
患者さんにとってのデメリットは1~2cmの傷が一つ増えることと、手術時間が30~40分長くなることがあげられます(図16)。

複雑になっていく、肺がんの手術。

肺がんに対する手術は、手術技術や器具の進化だけでなく、切除する範囲も変わってきています。肺は右側は3つ、左側は2つに分かれており、それぞれを”肺葉(はいよう)”と言います(図17)。
標準的な手術では肺がんのできた肺葉を切り取ります。例えば、右肺の上葉に肺がんができた場合、右肺の上葉を切除します(図18)。しかし、肺がんが小さかった場合はどうでしょうか。現在ではCT検査で大きさが2cm以下の肺がんもたくさん見つかるようになりました。このような肺がんに対して、「もう少し小さな範囲を切除することで、治療にならないのだろうか?」という発想が生まれました。そこで考えられた手術が、“肺区域切除術”です。
肺は血管や気管支の分かれ方によって右肺は10、左肺は8の”区域”という単位に分けることができます(図19)。肺がんのできた区域だけを切除する手術が、肺区域切除術です(図20)。はじめは肺の機能が悪いため、肺葉切除ができない患者さんに行っていました。しかし、日本が主導で行った研究で、一定の条件を満たせば、肺葉切除術と変わらない成績が得られるという結果が、2022年に報告されました。今後は肺区域切除術が主流になってくると考えられます。
では、肺葉切除術と肺区域切除術、どちらが難しいのでしょうか?「区域切除術の方が取る範囲が小さいのだから簡単だろう…。」と思われますが、そうではありません。区域切除術を行う場合は切除する区域に向かっている血管と気管支を、肺から掘り出して切らなければなりません。区域に向かう血管と気管支は細かく複雑に分かれているので(図21)、これを正確に掘り出して切らなければなりません。その際、残す区域に向かう血管や気管支を損傷することは許されません。
当科では、この複雑な区域切除術をロボット支援下で行っていきます。残念ながら、肺がんの大きさやできた場所などによっては、ロボット支援下肺区域切除術ができない場合があります。適応に関しては呼吸器外科医にご相談ください。

CT検診の勧め。

前述のCT画像の解答です。黄色い丸の中のボヤっとした影が肺がんです。直径0.8cmで一円玉の直径が2cmですから、約半分の大きさになります。これは胸部レントゲンでは写りません。これを見つけるためにはCTを撮影しなければなりません。
それでは「CTでがん検診をすればいいのではないか」ということになります。しかし、検診では正常な方が多いので肺炎の痕跡などの変化を肺がんの疑いとして診断してしまう可能性が圧倒的に高くなります。また、CTは胸部レントゲンより用いる放射線の量が多いので、がん検診を受ける全員の方に胸部CTを行うことは得策ではありません。
しかし、”ヘビースモーカー”の方は肺がんの発生率が高いのでCTでの検診をお勧めします。ヘビースモーカーの基準ですが、”喫煙指数”という値を用いて判断します。”喫煙指数=1日の喫煙本数×喫煙年数”で計算します。つまり一日20本を30年間吸っていれば、”20本×30年=600”となります。これが600以上の方はCTでの検診をお勧めします。

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