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地域医療の未来を育てる~これからの医療のあり方とは~

団塊の世代が75歳を迎える2025年は、日本がさらなる超高齢社会に突入する年となり、医療・介護問題の深刻化が一層高まることが予想されます。
この状況を見据え、地域医療を担う医療機関はどのような取り組みを進めているのか、また私たち生活者にはどのような自助努力が必要か、中日新聞一宮総局総局長の市川真氏が総合大雄会病院の高田基志統括院長に話を伺いました。(進行:東海ラジオアナウンサー 山崎聡子氏)

安心・安全という医療の基本を実践

山崎 世界有数の長寿国となった日本に欠かせない医療提供体制ですが、大雄会を中核病院とする尾張西部医療圏は充実した体制が整っているとお聞きします。

高田 この地域には当院を含め急性期病院が直径3キロ以内に3院ありますから、万一のことがあっても救急対応の体制が整っています。

市川 今年私は不整脈で手術を受けたのですが、設備の整った病院で治療が受けられる安心は大きかったですね。

高田 近年は救急搬送が困難な地域が多いのですが、大雄会には24時間体制で救急医療を提供する救命救急センターもありますから、救急隊の方のお話ではこの地域に救急搬送の困難事案は発生していないそうです。

市川 近頃は能登半島地震をはじめ大きな地震が続いており、災害時の医療にも関心が集まっています。その点においても急性期病院が複数あることは大きな安心材料ですね。

高田 総合大雄会病院は県から「災害拠点病院」の指定も受けており、万一の大規模災害発生時は、大雄会第一病院と共に災害医療に取り組む訓練を繰り返し行なっています。
また、災害医療派遣チーム「DMAT」を編成し、東日本大震災や熊本地震の際は現地で救援活動に取り組むなど、災害医療の経験がある医療従事者が身近にいることも大きな安心材料となります。

   医療の基本はサービス業ですから、患者さんに確かな安心・安全をお届けするということ、そして万一の災害時には住民の皆さまの命をお守りするという基本は、今までもこれからも変わらずお約束したいと思います。

2025年問題を見据えたプロジェクトが進行中

山崎 2025年には団塊の世代が75歳の後期高齢者となり、さらなる超高齢社会に突入するわけですが、これによりどんな問題が生じてくるのでしょう。

高田 2つの大きな問題があると思います。1つは後期高齢者が増えることで慢性期疾患が急増するという疾病構造の変化が起きること。もう一つは労働者人口の減少により医療現場を支えるのに必要な絶対数が足りなくなるということです。

市川 2025年といえば目前ですが、すでにこうした問題が表面化していることは実感されていますか。

高田 特に感じるのは高齢者の救急搬送の増加ですね。今まで救急といえば、心筋梗塞や脳卒中に代表される急性期疾患の患者さんでしたが、今は誤嚥性肺炎など高齢者特有の疾患で搬送される患者さんが多くを占めています。

市川 救急搬送といえば、救急車を安易に呼ぶことで医療の逼迫につながる問題を新聞で伝えたこともあり、家族は救急車を呼んでいいものか、迷惑にならないか迷ってしまうことも多いと思います。

高田 具合が悪くて救急車を呼ばれた方が、結果的に問題なければそれを迷惑などと医療従事者は思いません。むしろ何もなくてよかったと思うはずです。

   問題はその先です。救急患者さんが高齢の場合、日常生活の自立度や認知度の低下など、原疾患以外の問題を抱えていることが多く、治療を終えたからといってすぐ日常生活に戻れるわけではありません。急性期病院を退院後の高齢患者さんの出口問題は深刻です。

山崎 そのための取り組みとしてプロジェクトを立ち上げ、数年前から取り組んでおられるそうですね。

高田 大雄会には「総合大雄会病院」「大雄会第一病院」「大雄会クリニック」という複数の医療機関がありますが、この機能を再編してより効率的に運用できる医療環境を整備しようと立ち上げたのが「シン大雄会創成プロジェクト」です。
これにより近い将来、総合大雄会病院は「高度急性期」「急性期」に特化し、大雄会第一病院は「亜急性期」「回復期」に特化することでそれぞれの病院の役割を明確にし、効率的な医療を提供できるようにしたいと考えます。

   例えば総合大雄会病院で治療を終えてもすぐに自宅に帰れない高齢の患者さんは、大雄会第一病院に移って経過を確認しながら、その間に自宅に戻れるか他の施設に移るかといった調整をすることができます。

市川 同じ病院グループ内で、しかも徒歩圏内の病院間の連携となれば、患者さんにとってこれほど安心なことはありませんね。

高田 最終的には在宅で療養されるか、施設に入られることが多いのですが、急性期病院から在宅や施設というのはあまりに一足飛びすぎます。飛行機の乗り継ぎのトランジットのように、移行期を支援する病院がこれからは重要になってくると思います。

皆さまの支援のもと地域医療の充実へ

山崎 「在宅医療」の充実も大きな課題ですね。

高田 ご指摘のとおり、大雄会グループだけで医療が完結できるわけではありません。緊密な連携の輪を地域の医療機関で構築することが何より重要です。

市川 現在でも病診連携といった言葉をよく耳にしますが、すでにその連携はできあがっているのではないですか。

高田 総合大雄会病院は県知事から「地域医療支援病院」の承認を受けています。これは地域の病院、診療所、歯科医院を後方支援する機能と役割分担、連携を目的とした病院のことで、患者さんの「かかりつけ医」から紹介を受けて専門的な医療を提供し、症状が安定した段階でかかりつけ医に戻す。まさに病診連携による医療の提供です。

市川 地域医療の連携体制を円滑に進めるためにはどのような課題がありますか。

高田 高齢の患者さんは複数の疾患を持っておられる場合が多いため、よりきめ細かい連携が必要になります。そこで重要となるのが「情報の共有」です。大雄会グループだけなら電子カルテによる情報共有は可能なのですが、これが地域の医療ネットワークで共有するとなると現状はまだ難しい状況です。
ただ、電子マネーなど生活のデジタル化は劇的に進展していますから、医療・介護の分野でもいずれ情報の共有化がなされ、在宅の患者さんの治療、ケアに貢献できるものと考えます。

市川 一般企業でもD X(デジタルトランスフォーメーション)により、デジタル技術を活用した業務改善が急速に進んでいます。医療においてもDXが進展すれば、在宅医療も含め地域医療に寄与することが期待できます。

高田 また、大雄会グループには訪問看護ステーションがありますので、診療所と連携した在宅医療の提供はすでに実施していますが、さまざまな事情で受診したくてもできない患者さんが今後増えていくことが予想されます。こうした状況に備えるため、患者さんの送迎サービスを実施する予定です。

市川 近年は一人暮らしの高齢者も増えていますから、サポートする家族がいなくても、送迎サービスがあれば受診できずに病気を悪化させてしまうリスクを軽減できますね。

高田 現在、そのための送迎車の購入費用をクラウドファンディングで募ろうと準備を進めています。資金調達はもちろん重要ですが、地域の皆さまに地域医療に対する大雄会の取り組みを知っていただき、賛同してもらうことにより大きな意義を感じています。それが地域の医療を地域全体で支える気運につながることを期待しています。

コミュニティの力で健康寿命の延伸へ

山崎 自分たちができることで地域医療を支えることが大切ですね。その点では健康寿命を延ばすための自助努力も必要だと思いますが、アドバイスをいただけますか。

高田 高齢者が健康を損なう大きな原因の一つに、身体的にも精神的にも衰弱する「フレイル」がありますが、そのきっかけは社会的なつながりの薄れです。
元気の源は「社会とつながること」。コミュニティの活動に参加するなど人とのつながりを大切にすることが、健康増進の基本だと思います。

市川 新聞紙面でもフレイル対策の連載を掲載すると大きな反響があります。健康寿命の延伸につながる情報はメディアも積極的に発信し、啓発につなげていきたいと思います。
大雄会さんは今年100周年を迎えられますが、100年間地域の医療を支えてこられたように、この先の100年もまた地域の医療を支える要になっていただくことに期待したいと思います。

高田 大雄会は進取の精神をモットーに常に新しいことに挑戦してきました。これから日本が直面する問題にも100年間受け継いできたDNAで果敢に挑戦し、地域の医療を支え続けたいと思います。

山崎 本日はありがとうございました。

企画・制作/中日新聞メディアビジネス局 2024年5月25日中日新聞(尾張版)朝刊掲載
※肩書は取材当時のものです。

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